フィリピンの医療と、日本とは異なる病院のシステムについて、僕自身が通院して感じたことと、友人の入院に付き添ったときのリアルな体験を基に解説します。
結論から言うと、フィリピンの医療費は高額で、かつ、患者の立場に立ったサービスが行われていないと言うのが僕の印象です。
目次
フィリピンの医療の概要
フィリピンには1,200の医療機関があり、その内、約6%が国立、約30%が州や地方が管轄している公立。
そして最も多いのが、全体の64%を占める民間の医療機関です。
情報元:平成31年度 厚生労働省 医療国際展開カントリーレポート フィリピン編
国民が平等に医療を受けられない
フィリピン国内の医師の数は、国民1,000人あたり1.2人(日本は25.9人)と、深刻な医師不足です。
これは主観になりますが、僕の見た限り医師の7割以上が女性です。
医療機関は都市部に集中し、地方の過疎地や離島には病院がありません。
よって、野草や薬草による療法を行う呪術師や祈祷師に頼っている地域もあります。
また、医療保険が広まっていないフィリピンでは、診療費や薬代は全額自己負担。
貧困層は比較的安価な公的医療を利用することもままならず、病気やケガでも市販薬で済ませてしまうケースが多いです。
高額な医療費の民間医療機関を利用しているのは、国民の3割と推定されています。
医療従事者の収入
国家統計局国際労働機関(ILO)の調査では、フィリピン人の平均月収は11,000PHP~20,000PHP(約23,700円~43,000円)。
その中で、特に高額な所得を得ているのが、弁護士や医者など専門の免許を持った人たちで、医師の平均月給は約41,000PHP(約88,300円)と、国民平均の2倍以上の収入を得ています。
一方で看護師の待遇は良くありません。
理由は、フィリピンには介護、看護系の大学が多いため、需要に対して供給過多の状態だから。
買い手市場の看護師は、医療機関での報酬も安く設定されるため、優秀な看護師は、裕福層の家にプライベートで雇われたり、中東や香港などの海外に出て、介護や看護の仕事に就きます。
・医療機関に勤務する看護師の月収
約9,000~12,000PHP(約19,400円~25,800円)
・裕福層の家の介護スタッフの月収
約15,000PHP(約32,300円)
フィリピンの病院はオープンシステム
フィリピンの都市部にある私立の医療機関は、設備もしっかりしていて日本の病院と大差はないという解説を、ネットの記事でたまに見かけます。
しかし、実際に診察や検査を受けた経験のある僕は、日本の医療機関との違いを強く感じます。
たしかに、マニラやセブと言った大都市の医療機関は、素人である患者からは、設備が充実しているように見えます。
しかし、医師によって対応が違ったり、また、システム化がされていないため、とても時間がかかるという欠点があります。
フィリピンの医療はオープンシステムと言って、医師は病院に所属しているのではなく、病院内に部屋を借り、自分のクリニックを開業しています。
よって、大きな医療機関でも医師のレベルや患者への対応はマチマチで、当たり外れがあるのが現実です。
診察を受ける手順
フィリピンの医療施設は、個人クリニックが院内で開業するオープンシステムのため、日本の病院での受診方法とは大きく異なります。
病院に総合受付がない
受付らしき施設はありますが、クリニックの場所を案内してくれるだけで、いわゆる受付業務は行いません。
初診の場合は、どこに行っていいのかわかりませんので、受付のスタッフに自分の症状を伝え、院内にある適切なクリニックを紹介してもらいます。
各クリニックの入り口には秘書がいますので、そこで受付をし、診察の順番を待ちます。
検査が必要な場合は、病院の共用設備になっている検査室に行き、医師から指示された検査をしてもらいます。
長い待ち時間
医師は、いくつもの医療施設に自分のクリニックを持っていて、掛け持ちで仕事をしています。
例えば、月曜日の午前はA病院、午後はB病院といった感じです。
よって、診察時間や休診日は病院で一律に決まっているわけでなく医師の都合。
行ってみなければ、先生がいるのかどうかもわからない状態です。
また、担当医が来るまで、待合室で順番を待っているフィリピン人が多く、受診まで2~3時間待たされることもしばしば。
フィリピンの医療機関は、基本的に予約は受け付けていいませんので、その場でずっと待っていなければなりません。
意外と気軽な救急外来
エマージェンシーと呼ばれる救急外来には、医療機関に雇われている医師と看護師が24時間常駐しています。
費用は一般のクリニックよりも高額ですが、すぐに診てもらえて処置もしてくれますので、救急ではなくても利用する人は少なくありません。
僕も、日本から来た知り合いを病院に連れていくときは、救急外来に行くケースが多いです。
軽症の場合は、翌日改めてクリニックで診てもらい、入院が必要な場合は、そのまま手続きを行い入院します。
医療費の項目と金額
医療機関で支払う費用の項目と、支払い方について説明します。
診察費は医師の時価
診察費や処置費はDoctor’s Feeと呼ばれ、クリニックの医師個人に支払います。
診察が終わると、秘書から費用を告げられます。
院内で統一した料金はなく、患者の財力や保険の適用状況などを鑑みて、医師が患者ごとに決めている場合も多いです。
注射器代も請求される物品費
フィリピン独特の項目として物品費と言うものもあります。
注射器など、診察や治療のために使用する医療器材は、診察代とは別に、患者が負担しなければなりません。
現金で支払う場合と、医師からの指示で患者が購入し、持参する場合があります。
新型コロナウイルスの検査や治療では、医師が着ている防護服の費用まで請求されます。
検査費の支払いは病院へ
レントゲンやCTなどの検査設備は、医療機関の共用施設を使用します。
よって、検査にかかった費用は、医師にではなく検査時に病院の窓口で支払います。
支払うタイミングは、病院によって検査前、または後の場合があります。
高額な薬代
フィリピンも日本同様に医薬分業で、薬はファーマシーで買い求めます。
薬代は高額で、風邪を治すために処方された抗生物質とビタミン剤を2~3分購入しただけでも3~5千円になることがあります。
処方箋がなくても抗生物質以外の一般薬は街の薬局でも購入できるので、貧困層は病院に行かず市販薬で済ませるケースも多いです。
薬が高額なため、薬局では薬は一錠単位で売られています。
入院には保証金が必要
個室で一泊1万円前後。
大部屋で2~3千円です。(治療費は別)
入院の場合はデポジットと言って、最初に3~10万円ほどの保証金を支払う必要があり、差額分は退院時に返金されます。
日本人をはじめ、お金持ちに見える患者や、海外保険に加入している患者に対しては、スイートルームなどの高額な部屋を案内される場合があります。
僕の知り合いも、スイートルームに入院したのですが、バスルームやキッチンなど、ホテル並みの設備が整っていました。
1泊2万円以上したと思いますが、海外保険で支払われるため、患者本人にはあまり金銭の感覚がありません。
病院側が、日本人に高額な部屋をすすめる理由です。
日本人が利用する病院とかかりやすい病気
ここからは、フィリピン在住の日本人が利用している医療機関と、日本人がフィリピンで患う病気について説明します。
日本人は私立の医療機関
僕が住んでいるセブには、コロナ禍前まで約4,000人の日本人が居住していると言われていました。
そして、その多くの方が利用しているのが私立の医療機関です。
セブで一番大きな中華系のチョンワホスピタル
大学付属でスペイン系のセブドクターズ。
マクタン島でしたら、空港に近いマクタンドクターズが有名です。
居住者だけでなく、語学留学生や観光でセブを訪れていた方が、具体が悪くなった際も、たいていこれらの病院を利用しています。
フィリピンでかかりやすい病気
高温多湿で衛生状態が悪いフィリピンでは、日本ではほぼ消滅しているような病気にも注意を払う必要があります。
外務省のホームページには、フィリピンでかかりやすい病気として以下の9つが挙げられています。
- 食中毒
- デング熱
- ジカ熱
- マラリア
- A型肝炎
- 狂犬病
- 麻疹
- 結核
- エイズ
実際のケース
僕が実際にサポートして病院に連れて行ったことのある日本人観光客について、その症状と病院での治療を説明します。
体調が不良になる人は、発熱とからだのだるさを訴えます。
医師の診察では明確な原因はわからないのですが、食品や水のアレルギー、湿度や気温の変化、そして疲労のどれかを原因に挙げる医師が多いです。
つまり、体調を崩した人のほとんどは、上記に挙げたような深刻な病気ではありません。
医師からは、一晩入院して点滴を打つか、または薬を飲んで自宅で療養するかのどちらかを勧められます。
僕がサポートした5名のうち、2名は入院、3名は自宅療養を選びましたが、全員、1~2日後には回復しました。
病気にならないための予防策
フィリピンの医療レベルは、日本と比べて高いとは言えず、また言葉の壁もありますので、フィリピンに行く方は体調管理には十分に気を払ってください。
- アルコール消毒を心がける
- 手洗いとうがいの習慣化
- 生ものや生水は避け、加熱した食品やミネラルウォーターを飲用する。
- 屋台で販売されているような不衛生なものを口にしない
- 虫に刺されたりケガを避けるために長袖長ズボンを着用
予防のキーワードは「衛生」です。
この5つを行っていれば、病気にかかるリスクは大幅に削減できると思います。
まとめ
今回の記事では、フィリピンの医療の現状と、病院のシステムについて説明しました。
- 医療機関は裕福層が利用する私立と、おもに貧困層が利用する公立にわかれている
- 日本人は都市部の私立病院を利用している
- 医師と病院は不足している。しかし看護師は過多の状態。
- 病院はオープンシステム。医師は院内にクリニックを開業している
- 長い待ち時間や複雑なシステムなど、医療サービスの点で劣っている。
- 診療費は時価。医薬品代と入院費は高額である