海外移住先として人気がある東南アジアについて、各国の比較やおすすめのポイント、そしてリタイアメントビザの取得条件について説明します。
定年退職後、海外に転出して夫婦でのんびり生活したいと考えている方や、海外で仕事をして稼ぎたいと思っている人は多いと思います。
実際、外務省の調査によると2019年10月現在、海外に永住または長期滞在をしている邦人は140万人いて、その人数は年々増加しています。
ただ、いざ海外に移住となると、どこの国がいいのか、海外で暮らしていけるのかなど、いろいろと考えこんでしまう人も少なくないでしょう。
この記事では、海外移住を考えている方に向けて、移住先としてオススメの東南アジア各国の、住みやすさや移住に必要なビザの種類などを説明していきますので、移住先を検討する上で参考にしてください。
僕は40代の時に海外移住を決意し、3年かけて東南アジアの各国を視察して周り、現在はフィリピンで暮らしています。
目次
移住先は東南アジアが人気
統計によれば、日本人がもっとも多く居住しているのはアメリカで、次いで中国となっているのですが、これらの国に滞在している人は、駐在員などおもにビジネス目的の方で、退職後の移住先として人気があるのは東南アジアの国々です。
東南アジアの特徴を一括りでいうと、物価が安い、寒い冬がない、そして日本から近い、の3つが挙げられると思います。
しかし、ひとつひとつの国を調べていくと、国ごとに異なる特徴や文化を有していています。
ASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟している国は10か国ありますが、その中で、ロングスティ先の人気ランキングでBEST10に入っている、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、ベトナム、シンガポール。そして、2017年から退職者向けのビザの発給を開始したカンボジアを加えた7か国について、それぞれのおすすめのポイントや移住のためのビザについて解説します。
東南アジア各国を数字で比較
東南アジアの在留邦人数(永住者)
東南アジアで日本人がもっとも多く永住している国はフィリピンで、シンガポール、マレーシア、タイとつづいています。
国 | 日本人在住者 | 昨対 |
フィリピン | 5,881人 | +3.9% |
シンガポール | 2,291人 | +20.1% |
マレーシア | 1,999人 | +7.5% |
タイ | 1,766人 | +7.7% |
インドネシア | 1,138人 | +5.9% |
ベトナム | 320人 | +0.9% |
カンボジア | 146人 | +4.3% |
ロングスティ先として人気の国
一般財団法人ロングステイ財団が行った「ロングステイ希望国・地域2019」のアンケート調査によると、ロングスティ先として世界で一番人気のある国はマレーシアでした。
しかも、人気の上位10か国のうち、東南アジア諸国が6か国を占めています。
人気順位 | 国 |
1位 | マレーシア |
2位 | タイ |
3位 | ハワイ |
4位 | フィリピン |
5位 | 台湾 |
6位 | オーストラリア |
7位 | インドネシア |
8位 | ベトナム |
9位 | シンガホール |
10位 | カナダ |
現地に生活の拠点を移し、永住も視野に入れて暮らす海外移住と、長期の滞在型余暇を総称するロングスティでは、正確には意味が異なります。
しかし、僕もこの財団のイベントに参加したことがありますが、このアンケートの対象者の大半は、老後に海外転出を考えている中高年ですので、広い意味では海外移住もロングスティも大差はありません。
物価と家賃
東南アジア各国の首都と、東京の消費者物価および家賃比較。
(東京を100とした場合)
都市 | 消費者物価 | 家賃 |
東京 | 100 | 100 |
シンガポール | 93.1 | 151.7 |
バンコク(タイ) | 60.2 | 59.8 |
プノンペン(カンボジア) | 53.3 | 39.7 |
マニラ(フィリピン) | 47.4 | 59.9 |
ジャカルタ(インドネシア) | 46.9 | 42.7 |
クアラルンプール(マレーシア) | 45.8 | 33.5 |
ハノイ(ベトナム) | 40.9 | 27.5 |
シンガポールの消費者物価は東京と大差なく、家賃は約1.5倍高額になっています。
その他の都市の物価は、東京の4~6割ほどです。
出典:世界生活情報を調査している「NUMBEO」が公表した2020年のデータ
平和度
イギリスのエコノミスト誌が、世界144か国を対象に、戦争や内戦、隣国との関係、テロの可能性、凶悪事件の件数など、24項目を調査して、ランキング形式で平和度の指数を公表しています。
平和とは、客観的な数値もあれば、国民ひとりひとりの意識によっても左右されますので、一概に測ることはできませんが目安として案内します。
指数が低いほど平和度が高い国です。
順位 | 国 | 指数 |
7位 | シンガポール | 1,321 |
9位 | 日本 | 1,360 |
20位 | マレーシア | 1,525 |
49位 | インドネシア | 1,831 |
64位 | ベトナム | 1,920 |
78位 | カンボジア | 2,011 |
114位 | タイ | 2,245 |
129位 | フィリピン | 2,471 |
このデータには、COVID-19のパンデミックの影響も含まれています。
出典:経済平和研究所(IEP)世界平和度指数2020 (Global Peace Index)
移住ビザの要件
移住をする場合は、各国が定めている移住、または長期滞在が可能なビザを取得しなければなりません。
国によって条件が異なりますので注意してください。
現地で就労をする方は、別途就労ビザも必要になります。
タイ
50歳以上であればノンイミグラントOビザ、または年金ビザと呼ばれているリタイアメントビザの申請が可能です。
取得条件は80万バーツ以上をタイ国内の銀行に3か月間預金していること、または月65,000バーツ以上の年金収入があること。
また、タイの医療保険に加入することも義務となっています。
ビザの有効期間は1年ですが、毎年更新できます。
タイ国政府観光庁のホームページ(日本語)
マレーシア
東南アジアで唯一、年齢制限のないマイ・セカンドホームと呼ばれるビザを発給しています。
取得条件は50歳以上と未満の人で異なり、50歳以上の人はマレーシア国内の銀行口座に15万リンギットの預金があるか、または、日本で月1万リンギット以上の収入があること。
50歳未満は30万リンギットの預金または日本での1万リンギット以上の収入です。
一度、ビザを取得すれば10年間有効で、それ以降も更新が可能です。
マレーシア政府観光局のホームページ(日本語)
フィリピン
特別居住退職者ビザは35歳から取得可能です。預託金は2万ドル、年金受給者は1万ドルです。
預託金はコンドミニアムやゴルフの会員権など、投資に転用することもできます。
毎年360ドルの手数料を払うことで、基本的に何年でも更新が可能ですので、実質、永住ビザに近い性格をもっています。
フィリピン退職庁のホームページ(日本語選択可)
インドネシア
55歳からリタイアメンドビザが取得でき、預金額も月1,500ドル以上と安価です。
しかし、35,000ドル以上の居住施設の購入、または月500ドル以上の賃料の支払い。そしてインドネシア人の雇用や健康保険の加入義務など、移住後の条件が細かく定められています。
リタイアメントビザの有効期限は1年間で、5年まで更新できます。その後もインドネシアに滞在する場合は、改めて永住権の申請を行います。
カンボジア
2017年から退職者向けのビザ(ERビザ)の発給がスタートしました。
55歳以上で、日本での退職年金や社会保障などの退職証明書と、預金証明書(金額の規定はなし)を提出すれば取得が可能です。
年金受給者であれば、預託金が不要と取得のハードルは低いのですが、滞在期間が最長1年で、更新も不可となっているため、リタイアメントビザと言うよりは、一年間有効の観光ビザといった性格です。
シンガポール
国土が狭く人口の多いシンガポールでは、海外からの移住者を積極的に呼び込む政策は行っていませんので、年金受給者向けのリタイアメントビザはありません。
シンガポールに長期間滞在する場合は、就労ビザの取得が一般的で、月2,500シンガポールドル以上の収入があり、かつ大卒以上が条件となります。
その他、シンガポールに長期滞在する方法としては、観光ビザを現地で更新するか(滞在できるのは最長で入国日から60日間以内)、または観光ビザの有効期限内に、一度、近隣のマレーシアなどに出国して、再度入国する方法が考えられます。
シンガポールビザセンターのホームページ(日本語)
ベトナム
ベトナムには退職者ビザやロングスティビザなど、長期間滞在したり移住が可能なビザはありません。
長期滞在する場合は、ベトナムに入国してから最大3か月間有効の観光ビザを申請します。
東南アジア7か国のデータ
タイ王国
首都のバンコクには多くの日本企業が進出しているため、駐在員など、ビジネス目的で滞在している日本人が東南アジアの中でいちばん多いです。
バンコクの市街地には、日本食材を扱うスーパーマーケットや日本食レストランも多数ありますし、パッポンなどの繁華街は深夜までにぎわっていますので、お酒とアソビが好きな方でしたら東南アジアの中でいちばんのおすすめ。
ビーチや高原リゾートは、市街地からは離れています。
日本からの所要時間 | 約6時間 |
日本との時差 | -2時間 |
おもな都市 | バンコク(首都)、ノンタブリー、チェンマイ |
人口と平均年齢 | 6,900万人 / 37歳 |
現地在住の日本人 | 79,000人 |
気温 | 最高気温 39度 平均気温 29度 |
気候 | 雨季 5~10月、乾季 11~3月、暑季 3~5月 |
言語 | タイ語 |
宗教 | 仏教 |
観光地 | プーケット、チェンマイ、アユタヤ |
フィリピン共和国
東南アジア諸国の中では、シンガポールと並び、日常的に英語がつかわれている国です。
移住先として人気がある都市はメトロマニラとセブ島。都市の雰囲気の中で暮らしたい方はマニラ、海やマリンレジャーが好きな方はセブがおすすめです。
フィリピンは子どもが多いため、国民の平均年齢が23歳と際立って低いです。
日本からの所要時間 | 約4時間 |
日本との時差 | -1時間 |
おもな都市 | マニラ、セブ、ダバオ |
人口と平均年齢 | 10,100万人 / 23歳 |
現地在住の日本人 | 17,800人 |
気温 | 最高気温 34度 平均気温 26度~27度 |
気候 | 雨季 6~11月、乾季 12~5月、暑季 4~5月 |
言語 | タガログ語、英語 |
宗教 | キリスト教 |
観光地 | ボラカイ島、セブ島、タガイタイ |
シンガポール共和国
都市国家のシンガポールは、国名も都市名も同じシンガポールです。
世界でもっともスマートで安全な都市に選ばれるほど洗練された都市は、近代的な建物と歴史的な建造物が調和した美しい景観を備えています。
国民一人当たりのGDPも世界2位と経済的にも豊かです。
日本からの所要時間 | 7時間30分 |
日本との時差 | -1時間 |
おもな都市 | シンガポール |
人口と平均年齢 | 5,700万人 / 40歳 |
現地在住の日本人 | 36,800人 |
気温 | 最高気温 33度 平均気温 26度~28度 |
気候 | 雨季 11~2月、乾季 3~10月、暑季 6~8月 |
言語 | 英語、マレー語、中国語、タミール語 |
宗教 | 仏教、イスラム教、キリスト教、ヒンズー教 |
観光地 | セントーサ島 |
マレーシア
海峡を挟んで、タイと陸続きになっている地域と、ボルネオ島の一部に分かれている連邦立憲君主制国家です。
ツインタワーが有名なクアラルンプールはクリーンで洗練された街。一方のコタキナバルがある東マレーシアは、豊かな自然が広がる高原リゾートエリア。
マレーシアは、日本人のロングスティ先の人気アンケートで、14年連続で1位を獲得しています。
日本からの所要時間 | 約7時間 |
日本との時差 | -1時間 |
おもな都市 | クアラルンプール(首都)、ジョホールバル、コタキナバル |
人口と平均年齢 | 2,900万人 / 27歳 |
現地在住の日本人 | 26,700人 |
気温 | 最高気温 33~34度 平均気温 30度 |
気候 | 雨季 10~3月、乾季 4~9月 (西部の雨季は3~4月初旬、10~11月) |
言語 | マレー語 |
宗教 | イスラム教 |
観光地 | ボルネオ島、ペナン島、マラッカ |
インドネシア共和国
バリ島が有名なインドネシアは、9千以上の島々に490の民族が暮らしていて、東南アジアでいちばん人口が多い国です。
移住先として候補に挙がるのは、ジャカルタとバリ島ですが、ジャカルタは都市、バリ島は観光地と、街の雰囲気は大きく異なります。
日本からの所要時間 | 7時間30分 |
日本との時差 | -2時間 |
おもな都市 | ジャカルタ(首都)、パンドン、スラバヤ |
人口と平均年齢 | 25,000万人 / 29歳 |
現地在住の日本人 | 19,400人 |
気温 | 最高気温 32度 平均気温 28度~29度 |
気候 | 雨季 11~3月、乾季 4~10月 |
言語 | インドネシア語 |
宗教 | イスラム教 |
観光地 | バリ島 |
ベトナム社会主義共和国
地獄の黙示録やランボー、プラトーンなど、戦争映画で馴染みのあるベトナムは、インドシナ半島の太平洋岸に面した社会主義国。
北のハノイと南のホーチミンでは1,200kmもの距離があるため気候は大きく異なり、高原地帯のハノイは、一年を通して寒暖の差があり、ホーチミンは東南アジア特有の熱帯モンスーン気候です。
日本からの所要時間 | 6時間 |
日本との時差 | -2時間 |
おもな都市 | ハノイ(首都)、ホーチミン |
人口と平均年齢 | 6,700万人 / 31歳 |
現地在住の日本人 | 23,100人 |
気温 | 最高気温 33度 平均気温 20度~28度 |
気候 | 雨季 5~10月、乾季 11~4月 |
言語 | ベトナム語 |
宗教 | 仏教、キリスト教 |
観光地 | ダナン、ホイアン、コンダオ島 |
カンボジア王国
アンコールワットや王宮など、歴史的な観光名所を持つカンボジアは、長期滞在が可能なビザの発給が2017年と、まだ数年しか経っていないため、現在は日本人の移住者は少ないです。
しかし、ビザ発給の条件が他の東南アジア諸国と比較して低いので、今後は増えてくることが予想されます。
日本からの所要時間 | 約7時間 |
日本との時差 | -2時間 |
おもな都市 | プノンペン(首都) |
人口と平均年齢 | 1,500万人 / 24歳 |
現地在住の日本人 | 4,200人 |
気温 | 最高気温 40度 平均気温 28度~29度 |
気候 | 雨季 6~10月、乾季 11~5月、暑季 4~5月 |
言語 | クメール語 |
宗教 | 仏教 |
観光地 | シェムリアップ |
海外移住におすすめの国
リタイアメントビザを取得して東南アジアへの移住を考えている方におすすめの国は、マレーシア、インドネシア、そしてフィリピンです。
その中で、長期の移住を予定している方には、リタイアメントビザが10年間有効なマレーシアが特におすすめです。
また、リタイアメントビサ取得にかかる初期費用が安いのはインドネシア、手続きが比較的カンタンな国はフィリピンです。
日本と海外を行き来して、現地でロングスティを楽しむ方なら、バリ島(インドネシア)、セブ島(フィリピン)、そしてプーケット(タイ)など、世界的なリゾートで暮らしてみるのも選択肢のひとつになります。
尚、シンガポールは長期滞在者向けのビザが就労ビザに限られ、また物価も高いため移住先としてはおすすめしません。